SNSアクティベーション事例 — 土地の歴史を店に取り込んだ旗艦店とポップアップ3例
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店舗が建つ土地の歴史や建築を、店の設計そのものに取り込んだ施策は、来場者に「ここでしか撮れない理由」を渡すため、SNSで語られる材料になります。2026年秋に海外で開いた旗艦店とポップアップ3例を見ると、共通するのは、ブランドの世界観を持ち込むのではなく、土地の文脈とブランドの記号を重ねて見せていることでした。
| 国・地域 | 業種 | 何をしたか | 語る材料になる仕掛け | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| イタリア・ローマ | アパレル | 16世紀の宮殿を修復し、旗艦店として開いた | 宮殿の天井や階段を残したまま服を並べ、香りの体験と選書の棚を置いた | designboom |
| シンガポール | スケートボード・アパレル | 現地の歴史的ホテルの建築を下敷きにした店を開いた | ホテルの内装を思わせる大理石と、創業の地を思わせる壁を同じ店に置いた | Hypebeast |
| 台湾・台中 | キャラクター | 百年続く駅の古蹟の一角に期間限定店を開いた | 昔ながらの花柄タイルや装飾窓にキャラクターを重ね、園内を巡ってキャラクターを探す形にした | 工商時報 |
私たちは、体験がSNSで語られるところまでを含めて設計するアクティベーションを、SNSアクティベーションと呼んでいます(考え方の全体はSNSアクティベーションとは)。以下では、3例のどこが「体験」で、どこが「投稿のきっかけ」になり得たかを、報道に書かれている事実から読み解きます。投稿数などの成果は報道に書かれていないため、ここでは扱いません。
ローマの旗艦店は、宮殿のどこを残したのか?
Massimo Duttiは、ローマの目抜き通りに建つ16世紀の宮殿を改装し、2,000平方メートルを超える旗艦店として2026年10月に開きました。報道によると、専門の職人による歴史調査と修復を経て、ヴォールト天井や格式のある階段がそのまま残されています。照明はアーチの根元から当て、石の組積を覆わないようにしたとされています。
体験として置かれたのは、フィレンツェの香水店と協働した香りのアーカイブと、ローマの独立系書店が選んだ美術・建築の本の棚です。服を買う場所であると同時に、宮殿の中で香りを試し、本を手に取る場所になっています。
投稿のきっかけとして読めるのは、宮殿の階段や天井という「ローマでしか撮れない背景」に、ブランドの服が自然に収まっている点です。ブランドの世界観を新しく作り込むのではなく、土地がもともと持つ格式を借りて、それを損なわない形で服を置いています。
出典: designboom の記事(2026年10月9日)
シンガポールの店は、どうやって二つの土地をつないだのか?
ロンドン発のPalaceは、2026年10月にシンガポールで店を開きました。報道によると、設計の下敷きは現地の歴史的なホテルであるRaffles Singaporeの建築です。ホテルの内装を思わせる大理石と、島を囲む海を表す青い大理石が使い分けられています。
一方で、店内には木目調のコンクリートでつくったデッキの壁があり、これはブランドの創業メンバーが滑り始めたロンドンの場所を参照したものだと説明されています。さらに、シンガポールの愛称にちなんだライオンの柄を使った限定品が用意されました。
ここでの読みどころは、土地の記号とブランドの記号を「1つの店に同居させた」ことです。来場者は、シンガポールらしさとロンドンのスケート文化の両方を1枚の写真に収められ、限定品という持ち帰れるものも手にできます。
台中のポップアップは、来場者をどう歩かせたのか?
トムとジェリーの期間限定店は、2026年9月24日から10月26日まで、百年の歴史を持つ台中駅の鉄道文化園区で開かれています。報道によると、「台湾らしさ」をテーマに、昔ながらの花柄タイルや装飾窓、駅舎の建築要素が場面づくりに取り入れられました。
体験の中心は、園内の各所に登場するキャラクターを探しながら古蹟を巡ることです。テーマの壁や撮影用の場面に加えて、スタンプを集める企画も用意され、約100種のグッズには台中限定のデザインや、マンホールなど台湾の街角を模した商品が含まれています。
この例は、店の中だけでなく、古蹟の園区全体を「巡る理由」に変えている点が特徴です。来場者は複数の場所で撮影でき、歩いた道のりそのものが投稿の材料になります。同じ園区では鉄道の記念展示や謎解きも開かれており、街の行事と重なる形で人が集まる設計になっています。
日本で応用するとき、何を決めておくべきか?
3例から、日本で同じ考え方を取り入れるときに先に決めておきたいことは次の通りです。
- その土地の何を借りるか(建築、素材、街の記号、行事)を1つに絞る
- 借りたものを損なわない置き方を、施設や所有者と最初に確認する
- ブランドの記号を、土地の記号とどう同じ画面に収めるかを決める
- 来場者が撮る場所を1か所でなく、巡る順に複数用意する
- その土地でしか手に入らない、持ち帰れるものを用意する
たとえば、地方の歴史ある建物でポップアップを開く場合、建物の意匠を背景として借りるだけでなく、その土地の素材を使った限定品を出口に置くと、来場者は「どこで、何を体験したか」を具体的に語れます。また、都市の旗艦店であっても、その街の名前やモチーフを1つ取り込むだけで、ほかの都市の店とは違う写真になります。私たちが手がけるSNSアクティベーションの進め方は、こちらのページにまとめています。ポップアップで世界観を伝えた別の例は体験が世界観を伝える — ポップアップとリテール体験の共通点は何かで扱っています。
この記事の範囲
この記事は、3つの報道に書かれた事実から、空間の設計と投稿のきっかけの関係を読み解いたものです。各社の売上や来場者数、SNSでの実際の反応の量は確認しておらず、施策の成否を評価するものではありません。歴史的建造物を使う際の許認可や保存の手続きも扱っていません。
おわりに
土地の歴史を取り込んだ店は、来場者に「ここに来た理由」と「ここでしか撮れない1枚」を同時に渡します。ブランドの世界観を持ち込む前に、その土地がすでに持っているものを見ることが、語られる店づくりの出発点になります。