Case2026.10.07

参加型の体験イベントはなぜSNSで語られるのか — 日本の2事例から

#イベント#業界動向

参加型の体験イベントは、日常の当たり前の行為を、普段とは違う文脈に置き直して「競技化」または「儀式化」したとき、来場者が自分の言葉でSNSに語りやすくなります。日本の2つの事例に共通する型です。

国・地域業種何をしたかSNSで語られた仕掛け出典
日本食品有料の食フェスで、社員・インフルエンサー・生活者が共に企画した5つの体験型コンテンツを展開「口外禁止レストラン」など規則そのものが話題になる仕組みと、事前販売チケットの即日完売AdverTimes記事
日本生活雑貨(寝具)90分間の睡眠の深さ・質・安定性を計測機器で競う参加型イベントを開催「睡眠を競技化する」というギャップと、高額賞金・高倍率の応募という希少性AdverTimes記事

この2つの事例に共通する型は何か

どちらも、来場者が「体験した内容」をそのまま説明するのではなく、「普段はしない行為を、ルール化・競技化された場で行った」という構造そのものを語れるようになっています。食フェスでは「口外禁止」という制約自体が会話のきっかけになり、マットレースでは「寝るだけで賞金」という矛盾した組み合わせが語りたくなる要素になっています。どちらの事例でも、商品の説明を前面に出すのではなく、体験の構造自体が珍しいことが、投稿の動機になっています。さらに、どちらも参加できる人数を限定し、抽選や先着という希少性を組み込んでいる点も共通しています。参加できなかった人がSNS上の投稿を見て知るという二段構えの広がり方も、構造自体の珍しさがあるからこそ機能していると考えられます。

事例1: 味の素の有料食フェスはなぜ話題になったか

味の素は2026年10月、東京・南青山で初の有料食フェス「AJINOMOTO 未確認フードコート」を開催しました。社員・インフルエンサー・生活者が共に企画した点、誓約書にサインしてヘッドフォンで開発秘話を聞く「口外禁止レストラン」など、通常の飲食イベントにはない規則や仕掛けを複数用意した点が特徴です。事前販売の300枚のチケットは販売開始から24時間で完売しました。商品の説明や試食そのものではなく、「規則がある」「普段言えないことを聞ける」という体験の構造自体が、来場者が人に話したくなる理由になったと考えられます。会場内には「口外禁止レストラン」のほかにも、メニューのこだわりを読み上げて注文する「長文飯店」、社員が個人の好みに合わせてスープを提案する「バーテンダーのいるスープバー」など、通常の飲食店では成立しない企画が複数並びました。当日は50名以上の社員が接客に加わっており、企業が「作る側」として前に出る体験であることも、来場者が写真や言葉で共有したくなる珍しさにつながったと考えられます。

事例2: コアラジェイピーの「マットレース」はなぜ話題になったか

コアラジェイピーは2026年10月、東京・南青山で「マットレース by Koala」を開催しました。22台のベッドを並べ、90分間の睡眠の深さ・質・安定性を測定機器で計測し、順位を決める参加型イベントです。優勝賞金222万円に対して国内外から約4万6000件の応募があり、倍率は800倍を超えました。「個人で静かに行う睡眠を、公の場で競技化する」というギャップが企画の核心で、イギリス・台湾・インドなど海外メディアも事前に報道しています。賞金の大きさだけでなく、「寝るだけ」という行為と「競う」という構造の組み合わせ自体が、報道やSNSでの言及を生んだと考えられます。参加者は事前にくじを引いて耳栓・アイマスク・抱き枕などの「睡眠の相棒」を選ぶ仕組みも用意されており、結果が運と実力の両方で決まる構成になっていました。イベント当日もフランス・UAE・ドイツなど複数国のメディアが取材に訪れており、賞金の額だけでは説明できない規模の関心を集めています。

日本で応用するときに決めることは何か

  1. どの日常的な行為を「競技化」または「儀式化」できるかを先に決める(商品の機能説明から発想しない)
  2. 体験の構造自体に、来場者が人に話したくなる珍しさがあるかを確認する
  3. 参加の枠を絞り、希少性(抽選・限定枚数など)を設計に組み込む
  4. 来場者が体験の説明をしなくても、構造が伝わる名前・見た目を用意する

こうした体験の設計は、SNSアクティベーション(体験がSNSで語られるところまでを含めて設計するアクティベーション)の考え方そのものです。この言葉の整理はSNSアクティベーションとは — 体験がSNSで語られるところまでを設計する手法 にまとめています。構造の珍しさを軸にすることで、商品の説明に頼らずに話題を作れる可能性が高くなります。企画の初期段階で商品のスペックから発想すると、どうしても説明的な体験になりやすいため、先に「行為そのものの珍しさ」を決めてから商品を組み込む順番を意識するとよいと考えられます。

この記事の範囲

この記事では、2026年10月に報道された2つの日本の事例から、参加型の体験イベントがSNSで語られる共通の型を扱っています。海外の事例や、長期的な効果の持続性については、ここでは判断していません。個別の施策の成否や売上への影響についても判断していません。

おわりに

参加型の体験イベントがSNSで語られるかどうかは、商品の説明の量ではなく、体験の構造自体に珍しさがあるかどうかで決まると考えられます。日常の行為を競技化・儀式化する視点は、業種を問わず応用できる型です。