Case2026.10.26

SNSアクティベーション事例 — 受け手が持っているものを素材にした3つの施策は、なぜ語られたのか

#SNSアクティベーション#事例#UGC

受け手がすでに持っているもの(街への思い、現地の人の目線、自分の運動の記録)を素材にし、ブランドはそれを「見える形」にする側に回る。これが、今回取り上げる3つの施策に共通する型です。自分の声や記録が広告や記録の一部になると、受け手には「自分のものを見に行く」「自分の分を報告する」という投稿の理由が生まれます。語る主語がブランドから受け手に移るので、施策はSNSで語られる状態になります。

国・地域業種何をしたかSNSで語られた仕掛け出典
日本(横浜)自治体・鉄道市民約500人の「街の好きなところ」を絵にして電車1編成の車内に掲出自分の声が載った車両を探しに行き、見つけたことを報告できるAdverTimes(2026年10月16日)
世界10か国・23の目的地ホテル各地のクリエイターがゲスト目線で撮った素材を、屋外広告・機内・SNSに展開「作り込まない」素材が現地の人の投稿と同じ文法で流れるMarketing Dive(2026年10月19日)
北米自動車運動記録アプリ上で、参加者の走った距離を合算して目標に挑むチャレンジ自分の記録が目標達成の一部になり、達成の報告が参加者から広がるプレスリリース(2026年10月14日)
受け手の持ち物を素材にする型の流れ
受け手の持ち物を素材にする型の流れ

市民の声を車内広告にした横浜市の施策は、何が投稿の理由になったのか

横浜市は相鉄ホールディングスと連携し、沿線の街の魅力を描いたイラストを相鉄線の車内に掲出しました。素材になったのは、2026年5月に市内の公園で開かれた催しの会場で集めた来場者の声です。「街の好きなところ」を尋ねる案内ボードに、約500人から沿線の好きな場所や「こんな街になったらいいな」という意見が寄せられました。これをグラフィックレコーディングの手法で絵にし、相鉄線の1編成に、中づりやドア上のポスター、車内のビジョン動画として掲出しています。掲出は9月30日から10月19日の午前までで、その後は沿線の区役所や商業施設へ展示の場を広げる予定と報じられています。詳細はAdverTimes の記事(2026年10月16日)にあります。

投稿の理由になったのは、「自分の声がどこかに載っている」という状態です。声を寄せた人は、その車両に乗れば自分の言葉や、自分が挙げた店を探すことになります。記事では、イラスト化の際に「これはあのお店だ」と共感する人が多かったことが、主催側にとっての発見だったと紹介されています。市が用意したのは、声を集める場と、それを絵にして載せる場所です。何を語るかは市民が決め、どこに載せるかは市が決めた、という分担がこの施策の核です。

現地のクリエイターに撮ってもらったホテルの施策は、なぜ「作り込まない」ことが効いたのか

ホテルのロイヤルティプログラムを運営するブランドは、新しいブランドプラットフォームの立ち上げにあたり、従来の広告制作ではなく、クリエイターのネットワークを持つ会社を通じて現地のクリエイターと協働しました。規模は10か国・23の目的地・14のホテルブランドで、ブリーフから納品までを4週間で終えたと記事にあります。ブランドが示した方向は「より親密で、より共感しやすく、過剰に演出しない」ことで、シーツにしわがある、食事の途中である、といったゲストの視点で撮ることが例として挙げられています。素材は世界の屋外広告、機内の映像、SNSに展開され、SNS向けの素材は2027年まで使う予定とされています。詳細はMarketing Dive の記事(2026年10月19日)にあります。

ここで受け手が持っているものは「その土地を知っている人の目線」です。1つの広告素材を全媒体に切り分けるのではなく、目的地ごとにその土地のクリエイターが雰囲気を捉えたことで、素材は現地の人が日常的に投稿する写真と同じ文法になります。担当者はこれを「テスト」であり完璧ではなかったと述べており、仕上がりの一様さより、土地ごとの違いを残すことを優先した判断だったと読めます。

参加者の運動記録を合算した自動車ブランドの施策は、何が報告を生んだのか

自動車ブランドは、小児がんの啓発月間にあたる2026年9月、運動記録アプリ上でチャレンジを実施しました。参加者はアプリでラン、ウォーク、車いす、バイク、ハイク、スイムのいずれかを記録するだけで参加でき、記録した距離が合算されて共通の目標に向かいます。プレスリリースによると、当初の目標は参加開始から24時間以内に達成され、ブランドが目標を倍に引き上げると、コミュニティはそれも2日以内に超えました。最終的に15万人以上が参加し、アプリのチャレンジとして過去最長の合計距離を記録したとされています。達成に応じて、ブランドが支援団体への寄付を約束する形です。詳細はプレスリリース(2026年10月14日)にあります。

受け手が持っているものは「自分の運動記録」です。参加者は新しいことを始める必要がなく、いつもの運動を記録するだけで、その記録が目標達成の一部になります。リリースでは、インフルエンサーやアスリート、アプリ内で参加者を励ます人たち、ブランドのアンバサダー、そして参加者自身が達成を共有し、SNSとアプリを通じて広く届いたと記されています。目標が途中で引き上げられたことも、報告の理由になっています。「達成した」で終わらず「さらに上を目指す」が告知されるたびに、参加者には再び報告する場面が生まれるからです。

3つの施策に共通する「語られる」構造は何か

3例とも、ブランドが用意したのは「素材を預かる場」と「載せる場所」で、素材そのものは受け手が持っていたものです。この構造を、私たちは SNSアクティベーション、つまり体験がSNSで語られるところまでを含めて設計するアクティベーションの一つの型として見ています。考え方の全体はSNSアクティベーションとはと、サービスページにまとめています。

受け手の持ち物を素材にすると、投稿の主語が受け手になります。横浜市の例なら「私の声が載った」、ホテルの例なら「私の街がこう撮られた」、自動車ブランドの例なら「私の記録が目標に入った」です。ブランドが語る「私たちはこんな施策をしました」より、受け手が語る「私の〇〇がここにある」のほうが、その人のフォロワーには届きます。

日本で応用するときに決める5つ
日本で応用するときに決める5つ

日本で応用するとき、何を決めておくべきか

  1. 何を預かるかを1つに絞る。声、写真、記録のどれかに決め、預ける手間が1分で済む形にする。たとえば、来場者に「この店の好きなところ」を1行で書いてもらう場合、書く場所と回収の仕方を会場の動線の中に置きます
  2. 載せる場所と期間を先に決める。車内、店頭、公式アカウントの投稿など、「自分のものを見に行ける場所」が決まっていないと、預けた側に探す理由が生まれません
  3. 本人に戻す導線を作る。自分の声や記録がどこに載ったかを本人が見つけられるようにする(掲出場所の案内、記録の個人ページなど)
  4. 名前と二次利用の扱いを預かる時点で決める。載せる際に名前を出すか、どの媒体にどの期間使うかを、預かる場で明示します
  5. 報告の場面を複数作る。目標の引き上げや掲出場所の追加のように、途中で状況が変わる設計にすると、受け手が再び投稿する理由が生まれます

たとえば、発売前に20名へ商品を送るギフティングであれば、「商品の感想」ではなく「あなたがこの商品を置きたい場所の写真」を預かり、その写真を店頭の展示に使う、という形がこの型にあたります。感想を書いてもらうより、本人の持ち物(自分の部屋、自分の街)が施策の一部になるほうが、本人の投稿の理由が強くなります。

この記事の範囲

この記事は、公開された報道とプレスリリースに書かれていることだけをもとに、3つの施策の構造を読み解いたものです。各施策の反響の大きさや売上への影響は扱っていません。「なぜ語られたか」は私たちの読み解きであり、各ブランドの公式な見解ではありません。

おわりに

受け手の持ち物を素材にする型は、ブランドが語る量を減らし、受け手が語る量を増やす設計です。