Insight2026.09.09

投稿素材の二次利用とは?広告転用の基本と注意点

#起用設計#選定プロセス

「起用させていただいた投稿を、そのまま広告に使いたい」「ECサイトの商品ページにも載せたい」——タイアップが終わったあと、ブランド担当者からこうした相談をいただく場面は少なくありません。投稿の反応が良かったときほど、その素材を別の場所でも活かしたくなるのは自然なことです。

ただし、SNSに投稿していただくことと、その投稿を広告やオウンドメディアに転用することは、別の許諾が必要な行為です。この記事では、二次利用を検討する際に何を決めておくべきか、依頼のタイミングによって何が変わるのかを整理します。

二次利用とは、投稿の許諾と別に決める話です

まず前提を揃えます。インフルエンサーがSNSに投稿すること自体は、起用の契約でお願いした行為です。その投稿をブランド側が広告やECサイト、店頭什器など「投稿の外」で使うことは、これとは別の許諾が必要な行為になります。投稿していただいたことと、その素材を広告物として使わせていただくことは、権利としては別の話だと捉えておく必要があります。

この整理は見落とされがちです。投稿が公開された時点で、ブランド側からは「もう使える素材」に見えてしまうためです。ですが投稿は本人の発信であり、そこに写っている写真や動画、添えられた文章には本人の権利が及びます。広告への転用を検討する際は、このことを起点に置く必要があります。

近年は、SNSでの投稿をそのまま広告クリエイティブとして活用する動き自体は珍しくなくなっています。だからこそ、「お願いした通りに使っていただけた」という安心感を保ったまま二次利用を進められるかどうかが、次の起用のしやすさにもつながります。

二次利用で決めておくべきことは五つあります

二次利用を検討するとき、私たちが起用設計の中で必ず確認しているのは、次の五項目です。

図版1: 二次利用で決める5項目

範囲(どの媒体・どの地域で使うか)

広告として出稿する媒体(SNS広告、ディスプレイ広告、ECサイト、店頭什器など)と、配信する地域を先に定めます。「広告全般に使えます」という曖昧な合意は避け、想定している媒体を具体的に挙げて確認します。想定していなかった媒体で使われていたと後から分かることは、インフルエンサー本人にとって特に大きな不信感につながります。

期間(いつまで使えるか)

投稿はSNS上に公開され続けますが、広告としての利用には期限を設けるのが基本です。長期にわたる利用を求める場合は、その分を踏まえたうえで合意します。期間を明確にせず利用を続けると、後になって「まだ使われていたのか」という驚きにつながりかねません。

加工の可否(トリミング・テキスト重ね・色調補正など)

広告用に加工することを想定しているなら、その範囲も決めておきます。トリミングや文字の重ね書き程度なのか、大きく編集を加えるのかによって、本人の受け止め方は変わります。発信の世界観を大切にしている方ほど、加工の範囲には慎重です。

クレジット表記

広告面に本人のアカウント名や名前を表示するかどうかも決める事項です。表示することが本人の発信力を伝える機会になる場合もあれば、表示しないほうが好ましい場合もあります。どちらが適切かは案件ごとに異なり、一律のルールにはできません。

対価の考え方

二次利用は、投稿とは別の価値提供です。投稿の対価にあらかじめ含めておくのか、別途対価を設けるのかを起用設計の段階で整理します。金額の水準はこの記事では扱いませんが、「投稿の対価と二次利用の対価は別の話である」という整理そのものは、案件の規模に関わらず必要です。

これら五項目は、どれか一つを決めれば済むものではなく、組み合わせで意味を持ちます。期間を区切っても範囲が広告全般のままでは実質的に無期限に近い状態になりますし、加工を自由にできる合意でもクレジット表記のルールがなければ、本人の意図しない見え方で流通してしまうことがあります。

なお、二次利用はすべての投稿に一律で検討するものではありません。起用したすべての投稿を広告に転用する前提で契約を組むと、実際には使わない範囲まで許諾をお願いすることになり、かえって交渉のハードルが上がります。広告面で使う可能性がある投稿を絞り込んだうえで、その投稿について五項目を確認する進め方のほうが、双方にとって現実的です。

依頼のタイミングで、話の進めやすさが変わります

二次利用の合意は、いつ取るかによって進めやすさが大きく変わります。

図版2: 依頼のタイミング別の流れ

起用前に決める場合

起用の契約を結ぶ段階で、投稿の内容と合わせて二次利用の条件も提示します。この時点であれば、インフルエンサー側も全体像を踏まえたうえで受けるかどうかを判断できます。条件が最初から明確な状態で始まるため、交渉も進めやすくなります。

投稿後に相談する場合

投稿が公開されたあとで「思いのほか反響が良かったので広告に使いたい」という相談が生じることもあります。この進め方自体が悪いわけではありませんが、本人にとっては当初想定していなかった依頼になります。投稿時点の合意にない使い方をお願いする形になるため、条件のすり合わせに時間がかかりやすく、お断りされる可能性も起用前に決める場合より高くなります。

私たちの実績記録でも、二次利用がまとまりやすいのは、起用前の段階で選択肢として示されていた案件です。投稿後の相談がまとまりにくい主な理由は、本人の意向というより、決めるべき五項目が投稿後になって一度に積み上がるため、調整に時間がかかることにあります。反響が良い投稿ほど広告に使いたくなるのは自然な流れですが、それを見越して起用設計の段階で二次利用を選択肢に入れておくことが、結果的に本人にとっても判断しやすい進め方になります。

肖像・楽曲など、第三者の権利が絡む場合は別に確認します

投稿には、インフルエンサー本人以外の権利が含まれることがあります。ご家族やご友人が一緒に写っている、店舗や施設が背景に写り込んでいる、投稿にBGMが使われている、といったケースです。

これらは、インフルエンサー本人が二次利用に同意しても、本人だけでは許諾できない要素です。一緒に写っている方の肖像、施設側の許諾、楽曲の権利者の許諾は、それぞれ別に確認が必要になります。広告として展開する規模が大きいほど、この確認を後回しにしたときの影響も大きくなります。二次利用を前提にした投稿を依頼する際は、投稿の内容自体をディレクションする段階で、こうした第三者の権利が含まれない構成にできないか、あらかじめ相談しておくのが現実的です。

投稿を依頼する時点で、こうした要素が入り込みそうな企画かどうかを確認しておくと、二次利用を検討する段になって慌てずに済みます。逆に、投稿が公開されたあとで第三者の写り込みに気づいた場合は、二次利用の範囲を、その部分が問題にならない形(トリミングでの除外など)に限定するといった調整が必要になります。インフルエンサーキャスティングとはでも触れているように、投稿ディレクションの工程は、本来こうした確認と一体で進めるべきものです。

判断の分かれ目は、起用前に選択肢として示せているかです

ここまで整理した内容を、実務でどう使うかをまとめます。判断の分かれ目になるのは、二次利用を検討する可能性があるかどうかを、起用の設計段階で見立てられているかどうかです。

広告への転用を最初から想定しているキャンペーンであれば、起用前の条件提示に二次利用の五項目を組み込みます。一方、投稿の反響を見てから判断したいという事情がある場合は、その旨をあらかじめ本人にお伝えしたうえで、「反響次第でご相談することがある」という前提を共有しておくだけでも、投稿後の相談は進めやすくなります。想定していなかった依頼を突然お願いする形を避けること自体が、進めやすさを左右します。

条件が曖昧なまま進めた結果、投稿の意図とブランドの使い方がずれてしまう事例は、タイアップの成果が噛み合わないときで扱った起用設計のずれと同じ構造です。二次利用も、起用全体の設計の一部として位置づけておくことで、後工程での調整を減らせます。

もう一つの分かれ目は、判断に迷ったときにどちらへ倒すかです。範囲や期間を広めに取っておけば、後から慌てずに済むという考え方もあります。ですが私たちは、まず狭い合意から始めることをおすすめしています。狭く合意しておき、必要になった時点で範囲を広げるご相談をする方が、本人にとっても実際の使われ方を踏まえて判断しやすく、結果として合意そのものがまとまりやすくなるためです。

この記事の範囲

この記事では、二次利用を検討する際に決めておくべき項目と、依頼のタイミングによる違いを扱いました。著作権法や肖像権に関する条文の解釈、契約書の具体的な文言、二次利用の対価の水準については扱っていません。これらは案件の性質や地域、加工の程度によって個別に検討する必要があるため、実際の契約に際しては、案件ごとに条件を確認しながら進めることをおすすめします。

おわりに

投稿素材の二次利用は、広告表現の選択肢を広げる一方で、本人が想定していなかった使われ方につながるリスクも持っています。何を、いつ、誰と決めておくかを起用の設計段階で整理しておくことが、広告としての価値と、インフルエンサーとの信頼関係の両方を守ることにつながります。