Insight2026.09.09

KOL・KOCとは?インフルエンサーとの違いと日本市場での使い分け

#起用設計#選定プロセス#業界動向#フォロワー

インバウンドや越境の案件を検討していると、提案書や海外拠点からの資料に「KOL」「KOC」という言葉が並んでいることがあります。日本語では見慣れない略語のため、「うちで言うインフルエンサーのことですか」と社内で聞かれた経験のある方も多いのではないでしょうか。結論から言うと、KOLとKOCは、日本語の「インフルエンサー」という言葉が一つにまとめている性質を、二つの軸に分けて指し示す言葉です。

この記事では、KOL・KOCという言葉がどこから生まれ、何を指しているのかを整理したうえで、日本語の「インフルエンサー」という言葉との重なりとズレを見ていきます。読み終えたときには、越境案件で受け取った資料の言葉をどう読み替えればよいか、国内施策で近さを重視した起用を設計するときに何を見ればよいか、判断の材料がそろっているはずです。

インバウンド需要が戻り、海外向けの発信や越境ECを検討するブランドが増えるにつれて、こうした用語に触れる機会そのものが増えています。用語の意味を正確に押さえておくことは、現地の代理店や本社側の担当者と話がかみ合わないまま企画を進めてしまう事態を避けるうえでも役立ちます。

KOL・KOCという言葉は、中華圏のSNS・EC文化から生まれました

KOL(Key Opinion Leader)は、中華圏のSNS・EC文化の中で先に広く使われるようになった言葉です。特定の分野についての専門知識や発言力を通じて、フォロワーの購買の意思決定に影響を与える発信者を指します。SNSでの発信とEC(オンラインでの購買)が地続きになっている環境で、「この人が薦めるものは信頼できる」という関係性を表す言葉として定着しました。

KOC(Key Opinion Consumer)は、KOLよりも後から広がった言葉です。フォロワー数の規模や専門性の高さよりも、一人の生活者としての実感のこもった発信が支持を集める存在を指します。プラットフォームの側でも、著名な発信者による洗練された投稿だけでなく、一般の利用者による率直なレビューや使用感の共有が購買の参考にされる文化が育ってきました。KOL・KOCという二つの言葉が並んで語られるようになった背景には、こうしたSNSと購買が一体化したプラットフォームで、影響力の質がはっきりと二種類に分かれて観察されてきた経緯があります。

図版1: KOL・KOC・インフルエンサーの位置関係(専門性×近さ)

KOLは「専門性・権威」を軸にした概念です

KOLという言葉が指しているのは、特定分野についての知見や実績を背景に、発言そのものに説得力を持つ発信者です。美容であれば成分や使用感を専門的に語れる人、旅行であれば現地情報に詳しい人というように、フォロワーが「この人の言うことなら信頼できる」と感じる根拠が、専門性や権威という形で本人に備わっています。

フォロワー数の規模は、KOLかどうかを決める条件ではありません。フォロワー数が多い発信者の中にもKOLと呼べる人はいますが、規模の大小そのものはこの概念の軸ではなく、専門性や権威という軸のほうが本質です。専門性や権威の根拠は、資格や職歴のような明確な形をとることもあれば、特定の分野を長く発信し続けてきた実績の積み重ねという形をとることもあります。越境案件で「KOLを起用したい」という要望を受け取ったときは、規模の話をしているのか、専門性・権威の話をしているのかを、まず確認する価値があります。

KOCは「生活者としての近さ」を軸にした概念です

KOCという言葉が指しているのは、専門家としてではなく、一人の生活者としての実感を語ることで支持を集める発信者です。フォロワーが感じる信頼の根拠は、権威ではなく「自分と同じ立場の人が、実際に使ってみてどう感じたか」という近さにあります。

この近さは、フォロワー数の少なさと同じ意味ではありません。フォロワー数が多くても生活者としての近さを保った発信を続けている方もいれば、フォロワー数が少なくても専門性の高い発信をしている方もいます。KOCという概念が測っているのは規模ではなく、発信と受け手の距離の近さです。私たちが国内の起用設計で候補を見るときも、フォロワー数だけでは見えないエンゲージメントの実態を確認する必要があることは、同じフォロワー帯でもエンゲージメント率はどれだけ違うのかでも扱っている通りです。

日本の「インフルエンサー」は、この2軸を区別せずに使われてきた言葉です

日本語の「インフルエンサー」は、フォロワー数の規模や発信するプラットフォームを軸に語られることが多い言葉です。専門性・権威という軸と、生活者としての近さという軸を意識的に分けて呼び分ける習慣は、これまであまり根づいていませんでした。

これは、日本のインフルエンサー施策が未整理だったということではありません。私たちがインフルエンサーキャスティングとはで整理した候補選定の工程では、フォロワー数だけでなくエンゲージメントの実態や過去の投稿内容まで確認しており、実務のレベルでは専門性の高い方も、生活者としての近さで支持されている方も、どちらも起用対象として扱われてきました。KOL・KOCという言葉は、実務の中ですでに意識されてきたこの二つの性質に、名前を与えたものだと捉えるのが実態に近いと私たちは考えています。

インバウンドと国内施策とで、参照する軸が変わります

越境・インバウンドの案件で海外拠点や現地の代理店から「KOLのリスト」を受け取ったときは、専門性・権威という軸で選ばれているかどうかを確認する価値があります。現地のSNS・EC文化の中で、その発信者がどのような根拠で信頼されているのかは、日本側からは見えにくい部分です。フォロワー数の大小だけで良し悪しを判断せず、現地の文脈を踏まえて評価する姿勢が必要になります。

一方、国内施策でKOC的な起用を設計するときは、フォロワー数の規模を起点にしないことが出発点になります。生活者としての近さは、フォロワー数のランキングからは見えてきません。過去の発信の内容やフォロワーとの距離感、日頃のやり取りの雰囲気を確認しながら候補を見極める工程が必要になり、これは規模の大きい発信者を探す工程とは異なる視点を要します。

図版2: 施策目的別の使い分け

使いどころ・判断の分かれ目

実務で迷いやすいのは、越境案件と国内案件を並行して進めているときに、KOL的な視点とKOC的な視点を無意識に混ぜてしまう場面です。専門性・権威を軸に選んだはずの候補を、近さの軸で評価し直して「思ったより身近な発信ではない」と感じたり、逆に近さを軸に選んだ候補に専門性の高さを期待して「思ったより専門的ではない」と感じたりすることが起こります。どちらの軸で信頼を作ろうとしているのかが曖昧なまま候補を見比べると、比較そのものが成立しません。

この混同を避けるには、起用設計の初期段階で「今回はどちらの軸で信頼を作りたいのか」を言語化しておくことが有効です。新しい分野への参入で権威づけをしたい場面ではKOL的な軸を、既存のカテゴリで生活者としての共感を広げたい場面ではKOC的な軸を優先する、というように、目的に応じて軸を先に決めてから候補選定に入ると、リストの精度が上がります。

軸を決めたあとの候補選定でも、参照すべき情報は変わります。KOL的な軸で見るときは、その分野でどのような発信を積み重ねてきたか、他の専門的な発信者からどう見られているかといった、専門性の裏づけに関する情報が判断材料になります。KOC的な軸で見るときは、フォロワーとのやり取りの雰囲気や、発信の言葉づかいがどれだけ生活者としての実感に近いかといった、距離感に関する情報が判断材料になります。同じ「候補を見る」という作業でも、確認すべき観点が違うことを踏まえておくと、リストの精度を保ちやすくなります。

この記事の範囲

この記事では、KOL・KOCという言葉の出自と、日本語の「インフルエンサー」という言葉との関係の整理に絞りました。特定のプラットフォームの機能や規約の詳細、越境案件における契約や表示ルールの具体的な論点、費用面の検討については扱っていません。個別の案件でどちらの軸を優先すべきかは、ブランドの状況や参入するカテゴリによって変わるため、案件ごとに検討する前提で読んでいただければと思います。

おわりに

KOLとKOCは、優劣を表す言葉ではなく、信頼が生まれる根拠の違いを表す言葉です。専門性・権威で信頼を作るのか、生活者としての近さで信頼を作るのか。この軸を意識して起用設計の初期段階で言語化しておくことが、越境案件でも国内案件でも、候補選定の精度を左右します。