体験をつくる仕事と、語られる状態をつくる仕事——アクティベーション設計はどこで分岐するのか

結論から書きます。体験の場をつくることと、その体験が語られる状態をつくることは、地続きに見えて別の仕事です。イベントとしては滞りなく成立したのに、投稿はほとんど出ないまま終わる——この落ち方は珍しくありません。そして、その分岐は当日に起きているのではなく、当日より前のいくつかの決定の時点で、すでに起きています。この記事では、その分岐点がどこにあるのかを、私たちが実際に手を動かす順番に沿って整理します。
なお、本稿で触れる話はすべて匿名化した一般化であり、特定のブランド・案件・個人を示すものではありません。
「アクティベーション」という語が、どこまでを指しているか
はじめに言葉を揃えます。同じ「アクティベーション」という一語でも、発注する側と受ける側で射程がずれたまま話が進んでしまうことがあるためです。
ブランドアクティベーションとは
ブランドアクティベーションとは、広告を一方的に届けるのではなく、顧客がブランドの世界観を直接体験できる場や仕掛けをつくり、共感と行動を引き出すマーケティング手法です。日本語では体験型マーケティングとも呼ばれます。ポップアップストア、レセプションイベント、店頭の体験装置などがこれにあたります。「伝える」施策ではなく「体験させる」施策である、というのがこの語の中心にある考え方です。
SNSアクティベーションとは
SNSアクティベーションとは、そのブランドアクティベーションを「体験がSNSで語られるところまで」を含めて設計する考え方です。私たちが自社の型としてこう呼んでいます。体験の企画制作、誰を招くかの設計、当日の運営、投稿の設計、投稿率の実測までを分業せず、一つのチームで担当します。会場に何人集まったかではなく、その体験がどれだけ語られ、どこまで届いたかを成果として扱う点が違いです。
この二つは対立する概念ではありません。前者は施策の種類を指す一般的な言葉で、後者はその設計範囲をどこまで伸ばすかという話です。ただ、実務上のすれ違いは、たいていこの射程のずれとして現れます。場をつくるところまでが仕事なのか、語られる状態をつくるところまでが仕事なのか。ここが揃わないまま進むと、当日は成功しているのに、終わってみると誰も満足していないという奇妙な着地になります。用語の定義はサービスページにもまとめています。
分岐は、当日ではなく4つの地点で起きている
1. 招待を決めるとき
最初の分岐は、誰にお声がけするかを決める時点にあります。ここでの判断軸が「何名集められるか」になっているのか、「この体験がその方の発信の文脈に自然に載るか」になっているのかで、その後の設計はほとんど決まってしまいます。
念のため補足すると、これは投稿してくれそうな方を選り分けるという話ではありません。私たちが見ているのは相手ではなく、自分たちが用意した体験の側です。その方が普段どんなテーマを、どんなトーンで発信しているかを踏まえたうえで、この体験をその延長線上に置けるものにできているか。置けないのであれば、直すべきは人選ではなく体験のほうだと考えています。
2. 体験をつくるとき
イベントの体験は、その場で消えます。残るのは、持ち帰れたものだけです。
ここでいう持ち帰れるものとは、ノベルティのことではありません。その人の言葉で語れる一点があるかどうかです。会場の設えがどれだけ豪華でも、「すごかった」以上の言葉にならなければ、それは語りにくい体験です。逆に、ブランドが何を大事にしているのかが一つの場面に凝縮されていれば、規模が小さくても語る言葉は生まれます。会場設計の巧拙より、「この体験を一文で言うと何か」が決まっているかどうかのほうが、投稿の中身を左右します。
3. 当日の動線
三つ目は運営の話です。撮影と投稿は、終わってからお願いするものではなく、当日の動線の中にあらかじめ置いておくものだと考えています。
落ち着いて撮れる時間と場所が動線に組み込まれているか。ブランドとして触れてほしい点、逆に写り込みを避けたい点が、当日までに共有されているか。ハッシュタグやメンションの指定が、その場で確認できる形になっているか。こうした準備が抜けたまま「あとはお任せします」となると、投稿の負担だけが相手に残ります。依頼の中身を送る前に言語化しておくという論点は起用設計の失敗学でも扱いましたが、イベントの場合はそれが当日の時間と場所の設計にまで及ぶ、というのがここでの違いです。
4. 終了から投稿まで
最後の分岐は、イベントが終わった直後にあります。
ギフティングであれば、手元に商品が残ります。投稿しようと思ったときに、素材がそこにあります。ところがイベントは、終わった瞬間に何も残りません。当日の写真も、ブランドが伝えたかった背景も、主催した側にしかない状態になりがちです。撮影した写真や当日の情報を早めにお渡しできているかどうかで、投稿のしやすさは変わります。催促ではありません。素材と文脈を渡すという、こちら側の仕事です。
成果指標を変えると、設計の判断が変わる
ここまでの4つは、どれも「投稿率を成果に置いたときに、はじめて意識される」項目です。
来場者数を成果に置くと、限られた時間と手間は集客に配分されます。投稿率を成果に置くと、同じ手間が一人ひとりの体験の設計に配分されます。招く人数を増やすのか、一人あたりに使える時間を確保するのか。その判断がここで変わります。
私たちの実績記録では、来場されたインフルエンサーの投稿率は94.6%(37案件・390名)でした。ただしこの数字は規模によって均一ではなく、10名前後を境に、投稿されない方が現れ始めます。詳しい内訳はイベント来場者の投稿率にまとめました。これを「人数が多いと投稿されにくい」という話として読むこともできますが、私たちはむしろ、人数が増えたときに一人あたりの設計が薄くなりやすいという、こちら側の体制の問題として受け取っています。
測るのは、評価するためではなく、次の設計を変えるためです。何人来たかだけを数えているうちは、体験の設計に手を入れる理由が生まれません。
おわりに
体験は、つくった時点では半分しか終わっていません。残りの半分は、その体験が誰かの言葉になって、その先の人に届くところまでを指します。
私たちがこの範囲を「SNSアクティベーション」と呼び分けているのは、後半を誰かの好意任せにしないためです。場をつくったあとに何をするのかまで、あらかじめ設計に入れておくこと。分岐点は、いつも当日より手前にあります。
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出典: 引用した投稿率はスタッツ株式会社調べ(自社イベント施策実績、来場者全員の投稿有無が記録から判定できる37案件・390名に限定して集計)。個別の案件・ブランド・時期が特定されない形に統計処理された記録です。